管理組合必見!マンションの災害対策の作り方

東日本大震災をはじめ、近年は日本全体で未曾有の大災害を経験しています。
東日本大震災のときは私の住んでいる東京でも予想外のことが起きました。
大地震でしたが、ライフラインはかなり早く復旧。やれ安心と思ったらお店に物資が届かない。お店に行っても買うものがありません。
震源地ならともかく、東京なら道路の寸断もなく、西から入ってくるはず・・・。
なんと、道路等のインフラが正常な状態であったにもかかわらず、個人が燃料をすべて給油してしまったため、物資を運んで来たトラックが帰りの給油をできず、トラックが来れず地方から物資が届かなくなったのです。
本当に災害時っていろんなことが起きますよね。一人だけ助かっても生きられないのに・・・。
さて、地震以外にも日本では大規模災害がたくさん発生しています。
マンション管理組合でも「準備や対策が必要」なのは分かっていますが、どこから手をつけて良いかわかりませんね。
みんなで話し合っても「水の確保」や「老人や子供の安全確保」などの枝葉の議論にどんどん話が広がって、結局保留・・・。
しかし、災害対策の「考え方」を知れば「マンションの災害対策」はしっかり作れます。かなり大変な作業ですが、出来るだけ早急に作り上げて安心・安全を確保できる「資産価値の高い」マンションにしましょう。
このページの目次
災害対策の基本を知ろう(自助・共助・公助)
実際に災害が起こった地域のニュースを見ると、たまに「国や自治体の動きが遅い・・・」と嘆く報道やインタビューが流れます。
しかし、残念ながら、これは当たり前のことなのです。
災害対策の基本的な考え方に自助・共助・公助というものがあります。
簡単に説明すると下記のようになります。
- 自助・・・自分で自分の命を守る
- 共助・・・地域のコミュニティで共に助けあう
- 公助・・・行政による救助・支援によって復興を目指す
つまり、災害対策の基本的な考え方は「国や自治体が援助するのは最終段階の復興のみ」となります。
言い換えれば、「復興の作業ができる最終段階までは自分と地域コミュニティーが協力して生き延びてね」ということです。
このことは、自治体がHPなどで公開している「災害マニュアル」などを見れば確実に書かれています。
この理屈が分かれば、マンション管理組合がやることは明確です。
- 自助(自分で自分の命を守る)は各居住者にお願いする
- 共助(地域のコミュニティで共に助けあう)を徹底的に討論し形にする
の2つです。
専門委員会を設置しよう
マンションの理事会は多いところでも月に2回。通常は月1回が普通だと思います。
このペースだと情報集めだけでも1年ではできません。
いつ起こるかわからない災害に対してあまりに長い検討は意味がありません。「早く作って毎年改定する」のが正解です。
また、「災害マニュアル」は規約改定が必要なこともあります。
例えば、
- 管理規約における「災害マニュアルの位置づけ・根拠」
- 理事会が機能しないときの対策本部設置方法、権限
- 総会が開催できないときの非常時の予算決定方法
など、そのほかにもたくさん問題があります。
短期間に情報を集め、行政に疑問点を確認し、原案を作り総会議案にするためにはかなりのマンパワーが必要です。
専門委員会の設置で一気に全体像を作り上げ、居住者に情報提供をしましょう。
災害マニュアルの具体的な作成方法
あくまでアドバイスですが、作成手順は下記の通りです。もっと専門的なコンサルを使う手もありますが、かなりの費用がかかります。
「完璧な災害対策」なんて絶対にできませんので、毎年改定することを前提に自力で作りましょう
情報を収集しよう!
まずは、情報収集です。
最初は、マンション所在地の自治体(都道府県、市区町村)の災害時マニュアルを手に入れましょう
自助、共助、公助の話が詳細に載っているはずです。
また、災害は地震だけではありません。津波、洪水への対応も書いてあるはずです。
想定していた非難場所が洪水ハザードマップでは危険地域になっていたりしていませんか?
ちなみに当サイト案内人である私の地域は避難場所が川の氾濫危険地域に設定されていました。
あぶない、あぶない・・・。
また、自分のマンションの立地は避難場所よりも硬く安全な地盤であることも分かりました。
移動のリスクを抱えて非難場所に行っても、壊れてるかも・・・。
とにかく、自分が住んでいる地域の災害時マニュアルで自治体がどういうストーリーで災害の全容を掴み、対応しようとしているのかを確認しましょう。
確認する内容は下記のような内容です。理事会や住民への説明で抜けがないようにチェックリストを作るとよいと思います。
- 自助・共助で住民に何を求めているのか
- 日頃からの備え
- ハザードマップ
- 災害時避難場所
- デマに惑わされない災害時の情報源
自治体によっては他にもたくさんの情報があるはずです。
あまり最初から色々な情報を入れてしまうとまとめる作業で混乱します。
住んでいる地域のオフィシャルな情報を確実に整理しましょう。
理事会と情報を共有しよう!
自治体の災害情報を整理したら、まずは理事会へ報告しましょう。
マンション理事会の防災対策で求められていることは「共助」であることが明確になるはずです。
ここで、
- 専門員会の報告内容
- 「自助」でマンションの住民が備えるべきポイント
- 理事会としての方針
が理事会の議事録に残り、区分所有者に配布されることとなります。
居住者に「自助」をお願いしよう
理事会、専門員会では繰り返し居住者の「自助」について必要性を広め、災害に備えることをお願いしましょう。
マンション理事会では基本的に「自助」部分の準備はしないのが普通でしょうから、本当に災害が起こったときに生き残れない住民が出てしまいます。
また、「自助」の情報提供と「準備の依頼」が不十分だと、予算を要求する「総会」で揉めることとなります。
この段階で「自助部分の準備も理事会でやるべき」というクレームが区分所有者から出れば、無理やりに「マンション理事会の準備=共助」にこだわる必要はありません。
総会における予算の要求が大きくできる上、管理費を上げる理由が明確になるので、理事会としては後の方針作りが容易になることもあり得ます。
地域コミュニティーへ参画していないマンションの管理組合は自治体へ実態をヒアリングに行くことをお勧めします。
災害時マニュアルを作ろう!
情報収集が終わり、理事会の方針が決定したら早急に「災害時マニュアル」を形にしましょう。
とは言っても、何かの見本がないと、なかなか作れるものではありません。
こんなときに便利なのが、「マニュアル作成の手引き」です。
私(案内人)が住むマンションで専門委員会を経験したときにも色々と参考にしましたが、一番勉強になったのが仙台市が作成した「分譲マンション防災マニュアルの手引き」です。
東日本大震災での被害や影響、法整備の限界、共助の具体的な事例など、実際に起こったことをかなり詳細にレポートした上で分譲マンションに絞って手引書が作成されています。
マンションの理事会、専門委員会の方は是非読んでいただきたいと思います。
つまり、実際に災害時マニュアルを承認し、予算を決定するのは「区分所有者」ですが、災害時に作成したマニュアルの「共助の対象」となるのは賃貸であっても「居住者」なのです。
また、復興にかかわる国や自治体の「公的支援制度」を受けられるのは「居住者」であって区分所有者ではありません。
現実に区分所有者が九州に住んでいるのに、住むところが無くなった「居住者」が公的支援を受けられないなんて変な話です。公的支援は「生活を取り戻すための復興」が目的で「資産減少の補填」ではありません。
従って、そのマンションがどういう防災対策を準備しているのかは居住者全員に通知する必要があります。
備品リストを作成しよう
理事会の方針が決定すると備品もほとんど決まってきます。
いろいろな情報を集めたり、マニュアル作成の手引書などにもたくさん参考事例があります。
ここで重要なのは「命を守るための自助」に関わる備品を居住者にお願いして、マンションの備品から除くことです。
できるだけ共通の費用で購入するものは少なくしましょう。
リストが出来上がったら、「どこで安く手に入れるか?」の検討です。
まずは、管理組合経由で業者の見積もりを取りましょう。
その中でホームセンターでも安く買えるものがあったら代表者が買いに行く前提で見積もり作業を行い、総会へ提案する予算作りとなります。
管理規約との整合性をとろう!
災害時マニュアル(案)が完成したら管理規約との整合性を取りましょう。
災害時マニュアルがない管理組合はその管理規約にも災害時についての記載はないでしょうから、どういう根拠で災害時のマニュアルの有効性があるのかを示す必要があります。
基本的には下記の3段階になります。
項目 | 内容 |
---|---|
管理規約 | 管理規約改定(災害発生時などの対応) ①「大規模災害の発生時の予防と対応について緊急時細則を制定する」 ②緊急時細則に従い対策本部が設置された場合は緊急時細則が本規約に優先する」 ③緊急時細則の運用詳細については災害時マニュアルに規定する」 などと記載して、最終的なマニュアルが有効性を持つことを証明します。 |
緊急時細則 | 緊急時細則を新設します。 ①細則の目的 ②対策本部のメンバーの選出 ③災害時マニュアルの位置づけ ④災害対策本部の立ち上げと期間 ⑤緊急時の費用の支出、支出後の承認 などを規定します。 |
災害マニュアル | 個別に具体的な詳細を記載します。「行動マニュアル」になります。 普段の心がけから、「安否確認方法」や「災害発生時は水を流さない!」「ゴミはベランダに保管!」など行動の詳細を記載します。 |
継続的に見直しを行う仕組みを作ろう
「災害時マニュアル」はどれだけ頑張っても完璧なものなんて出来上がりません。
細則やマニュアルの規定として
「毎年理事会は防災訓練を行い、マニュアルの有効性を確認し、毎期の総会へ報告しなければならない」
といった項目を入れておくと、どこかで新たに起こった災害にも対応できる立派なマニュアルになります。
注意点1:個人情報の保護について
災害時マニュアルを作っていくとわかるのですが、自治体や町会・自治会と連携し情報交換する場合にどうしても「居住者名簿」が必要になります。
「災害が起こった時に申告してもらえばいいや」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、居住者名簿がないと「安否確認」がしっかりできません。
また、投薬・介助が必要な居住者、乳幼児など、通常とは違った支援をお願いする必要もあります。
私の住むマンションでは居住者名簿の保管と運用をマニュアル化して厳重に保管する規定を作ったため、区分所有者や居住者からのクレームはありませんでしたが、規定に費やした時間は相当なものです。
病歴などデリケートな部分も含んでいるため、十分な検討を行いましょう。
注意点2:「災害時」の明確な規定
マニュアルには、「マニュアルが適用される災害」を明確に規定する必要があります。
理事会が正常に機能していれば、「災害対策本部の設置」自体が必要なく色々な意思決定ができますので、管理規約が優先されマンション全体として問題ありません。
災害については地震、洪水、津波、火山の噴火など色々考えられますが、「理事会が正常に機能しない瞬発的な災害」は大地震です。
そこで、地震が発生した場合の「災害対策本部設置」目安として「ライフラインの喪失」なのか、「震度6以上」なのか基準をしっかりと決めておきましょう。
この場合、マンションに残っている居住者の中から対策本部のメンバーが決まります。
抜けの無いように丁寧に規定しましょう。
このページのまとめ
簡単にこのページのポイントを書いてみました。
- 1、災害時マニュアル作成は専門委員会を設置しよう
- 2、完璧なマニュアルを目指さず、早く作り上げよう
- 3、居住者への情報提供を十分にやろう
- 4、継続的に見直しを行う仕組みを作ろう