知っておきたい相続1(相続税)
先日、知り合いのお父様が亡くなり、相続の話を聞きました。相続は本当にいろいろモメますね。
それまでまったく連絡のなかった人から連絡が来るとか、突然、自分の持分だと主張する人が現れるとか・・・。
相続については「民法」の話と、「相続税」の税法の話がごっちゃになっている方が多いようなのでしっかりご説明いたします。
このページの目次
相続税の計算方法
相続税の計算手順は下記のとおり8つです。
言葉だけだと分かりにくいので、事例の金額も示しながらご説明していきます。
なお、平成27年1月1日以後の相続については基礎控除額や税率等が変更されましたのでご注意ください。
- 遺産総額の確定
- 遺産額の確定
- 相続開始前の3年以内の贈与財産を合算する
- 正味の遺産額の確定
- 課税遺産総額の確定
- 法定相続分で按分
- 相続税の総額の計算
- 個人の税額の計算
手順1 遺産総額の確定
総遺産額には現金、預金、株式、ゴルフ会員権、土地、建物などはもちろん、美術品、骨董品なども入ります。さすがに、使い古しのコップや服までは必要ありません。
そして忘れてはいけないのが、生命保険や死亡退職金です。「みなし相続財産」とがあります。
みなし相続財産とは、被相続人(死亡した人)が所有していた財産で相続人等に承継された財産ではないのですが、被相続人の死亡に伴い相続人等が経済的利益を得ることとなることから、相続税法上、相続税が課税される財産として取り扱われるものです。
さらに、「相続時精算課税制度」で贈与を受けている場合も、ここで総遺産額に合算します。
具体的な事例を下記に示してみます。複雑にするといくらでも複雑になってしまうので一般的なもので記載します。
被相続人(死亡した人)は夫。妻と2人の子供がいるものとします。
この場合、「法定相続人」は3人となります。
内容 | 事例 |
---|---|
現金 | 500万円 |
預金 | 2600万円 |
株式 | 1000万円 |
土地 | この事例では「路線価」で7000万円の土地で200㎡とします。 相続の計算に使う土地の価格は「路線価」です。 被相続人(死亡した人)等の居住していた宅地については、相続のときに特例があります。330㎡までは80%減額されます。 7000万円×(1-0.8)=1400万円 従って、1400万円が土地の課税金額となります。 |
建物 | 建物は固定資産税評価額が課税金額となります。事例では1000万円にします。 |
生命保険金 | 生命保険金は「みなし相続財産」として合算します。 ただし、生命保険金は「契約者」「被保険者」「受取人」の関係や「保険金の受取り方法」によっても課税方法が違いますのでご注意ください。 この事例では契約者(保険金支払者)と被保険者が被相続人(死亡した人)。受取人が妻で保険金を死亡時に一括して受け取ったものとします。 生命保険金の基礎控除額は500万円×法定相続人の数です。したがって、 生命保険金(入金額5,000万円−500万円×3)=3500万円となります。 |
上記全てを合計します。遺産総額は9000万円となりました。
手順2 遺産額の確定
遺産額は遺産総額から「非課税財産」、「葬式費用」、「債務」を減額したものです。
引き続き事例でご案内します。
内容 | 事例 |
---|---|
非課税財産 | 墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具などは課税されません。ただし、骨董品として収集しているものは課税されます。事例では墓代として100万円とします。 |
葬式費用 | 300万円 |
債務 | 借入金として1000万円債務があったものとします。 |
上記全てを合計すると1400万円となりました。
遺産総額9000万円から1400万円を引くと遺産額は7600万円となります。
手順3 相続開始前の3年以内の贈与財産を合算する
被相続人が亡くなる前に、生前贈与で駆け込み贈与をして、相続税を安くすることがないように設けられたのがこの制度です。
生前贈与を受けたときに既に贈与税を支払っている場合、贈与税額から引くことができるので二重課税されることはありません。
加算される贈与財産の範囲は、被相続人から生前にもらっていた財産のうち死亡前3年以内にもらったものすべてです。3年以内であれば贈与税がかかっていたかいなかったかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。
また、例外として贈与税の配偶者控除があり、これは上記の対象となりません。
事例が複雑になるので、事例では「相続開始前の3年以内の贈与財産」はなかったものとします。
手順4 正味の遺産額の確定
「正味の遺産額」は上記 手順2の「遺産額」に手順3の「相続開始前の3年以内の贈与財産」を合算したものとなります。
「相続開始前の3年以内の贈与財産」は無かったことにしました。
したがって、この事例の「正味の遺産額」は遺産額と同額の7600万円とします。
手順5 課税遺産総額の確定
「課税遺産総額」は上記「正味の遺産額」から「基礎控除額」を引いた金額となります。
基礎控除額は 3,000万円+600万円×(法定相続人の数)で計算します。
注意点ですが、あくまで
「法定相続人の数」で実際に誰が何人で相続したかは全く関係ありません。
事例では妻、子供2人の合計3人が法定相続人です。
したがって、基礎控除額は 3,000万円+600万円×3=4800万円となります。
正味の遺産額=7600万円から基礎控除額=4800万円を引くと2800万円となります。
「課税遺産総額」は2800万円です。
課税遺産総額の確定まで(手順1~手順5まで)のまとめ
事例の金額を記載したまとめ表を作成しました。まとめ方は国税庁のホームページを参考にしています。
相続税の課税対象となる課税遺産総額の計算
手順6 法定相続分で按分
「課税遺産総額」が出たら、
「法定相続人が法定相続分で按分して相続した」と仮定して各人の相続税額を計算します。
事例の場合、法定相続分は妻50%、子供2人が25%ずつとなります。
したがって、相続金額は妻、1400万円、子供2人が700万円ずつとなります。
手順7 相続税の総額の計算
法定相続分で按分したら、「相続税の速算表」を使ってそれぞれの税額を計算します。
妻の税額=1400万円×0.15-50万円=160万円
子供の税額=700万円×0.1-0=70万円
従って、相続税の総額は
160万円+70万円+70万円=300万円となります。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 0 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 50% | 7,200万円 |
手順8 個人の税額の計算
上記「手順1」から「手順7」までの計算で、相続税の総額は 160万円+70万円+70万円=300万円となりました。
やっとここから個人の相続税額の計算です。
どういう意味なのかというと、例えば、法定相続の按分の通りに実際に相続した場合は下記の通りになります。
妻の相続税額・・・300万円×1/2=150万円→配偶者の税額軽減により、税額は0円。
子供1の相続税額・・・300万円×1/4=75万円
子供2の相続税額・・・300万円×1/4=75万円
となります。
では法定相続の按分とは違った相続をした場合はどうなるのでしょうか?
妻が80%、子供が10%ずつ相続した場合は、
妻の相続税額・・・300万円×4/5=240万円→配偶者の税額軽減により、税額は0円。
子供1の相続税額・・・300万円×1/10=30万円
子供2の相続税額・・・300万円×1/10=30万円
となります。
法定相続人とは
相続税の計算では「法定相続人」がとても重要です。
配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となります。その他は順位があり、
となります。第一順位の人がいない場合のみ、次の順位が相続人となります。第三順位も第二順位がいない場合のみ相続人となります。
また、順位より下の世代(子供の子や兄弟の子)には代襲相続(親の代わりに相続すること)があり、順位の人が亡くなっている場合にはその子が相続します。
ただし、親が相続放棄をした場合には子に代襲相続されません。
考え方はシンプルなのですが、いろいろな家庭で個別の事情があるので、パターンが多いです。異母兄弟、養子、非嫡出子などです。
非常に簡単なパターンですが、法定相続人と相続割合をチャート式の表にしました。ご活用ください。
相続税額の2割加算
被相続人(亡くなった人)の配偶者、被相続人の両親、子供、子供が亡くなっていた場合のその子供(孫)、子供がなくなった場合に、その子供を「孫養子」とした場合を除く相続人は相続税額が2割加算されます。
要するに、通常、被相続人の財産が当然引き継がれることを期待される人以外は、相続税が2割加算されるということです。
このページのまとめ
いかがでしたでしょうか?相続税の計算は手順をしっかり踏まないと計算できないことがお分かりいただけたと思います。
また、実際の相続とは関係なく、法定相続人の数で計算するという方法も特殊で、なかなか頭に入りませんね。
簡単にこのページのポイントを書いてみました。
- 1、相続税の計算は遺産総額を確定することが第一手順
- 2、法定相続人は何人なのか把握しておこう
- 3、相続税は実際の相続額よりもかなり課税部分は小さくなる
- 4、配偶者の税額軽減は非常に大きい
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