知っておきたい相続6(銀行口座の凍結・解除)

市区町村の役所に死亡届を出すと銀行に通知が行くために口座が凍結されると思っている方もいるようですが、自治体から銀行に通知が行くことはありません
そのため、銀行が死亡の事実を知らずに死後もそのまま使えている口座もあります。

今回は銀行口座の凍結と解除についてご説明いたします。

銀行口座の凍結

前述したように、銀行口座の凍結は「死亡届」が出されたこととは全く関係ありません
ほとんどの場合、家族からの申し出や、新聞の訃報欄などにより把握しているようです。

亡くなった方の預貯金の口座凍結の理由、効果を理解すれば解除についても理解が早くなりますので、順番にご説明いたします。

1、銀行口座凍結の理由

亡くなった方の預貯金は、亡くなった時点から、相続財産(遺産)となります。
一部の相続人が勝手に預金を引き出して、他の相続人の権利が侵害されるのを防ぐため凍結されます。

そもそも、預金口座の財産というのは故人固有の財産です。
相続財産となりますので、たとえ家族であっても勝手に引き出すことはできません。

2、銀行口座凍結の効果

銀行の口座が凍結されると、「勝手に引き出すことができない」といったことのほかに

  • 公共料金の引き落としの停止
  • クレジットカードやローンの引き落としの停止

があります。

銀行口座の凍結解除

1、亡くなった方の預貯金の法的取り扱い

亡くなった方の預貯金は「債権」であって「動産」でも「不動産」でもありません。
銀行は相続人の請求によって支払いをする「債務」を負っているという考え方です。

したがって、遺言書や遺産分割協議書に明確な内容が記載されていない場合(「全預貯金の40%を相続する」など、個別の銀行が知りえない内容の場合)や、実行されたかどうか確認のできない条件付記がされているような場合は引き出しはできません

参考に全国銀行協会の資料を下記にリンクしました。
遺産分割協議書記載の注意点(全国銀行協会)

2、銀行口座凍結解除手続き

凍結されてしまった銀行口座の凍結解除手続きに必要な書類は個別のケースによって違いがあるようです。
また、具体的な手続きは各銀行によっても違いがありますので必ず事前に問い合わせをしましょう。

基本的なパターンですが、口座凍結解除に必要な書類を記載します。

ケース 必要書類
1、遺言書がある場合
  • 遺言書
  • 検認調書または検認済証明書(公正証書遺言以外の場合)
  • 被相続人(亡くなられた方)の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
  • その預金を相続される方(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
  • 遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合)
2、遺言書が無く、遺産分割協議書がある場合
  • 遺産分割協議書(法定相続人全員の署名・捺印があるもの)
  • 被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の印鑑証明書
3、遺言書が無く、遺産分割協議書も無い場合
  • 被相続人(亡くなられた方)の除籍謄本、戸籍謄本または全部事項証明書(出生から死亡までの連続したもの)
  • 相続人全員の戸籍謄本または全部事項証明書
  • 相続人全員の印鑑証明書
4、家庭裁判所による調停調書・審判書がある場合
  • 家庭裁判所の調停調書謄本または審判書謄本(審判書上確定表示がない場合は、さらに審判確定証明書も必要)
  • その預金を相続される方の印鑑証明書

 
さらっと書いていますが、3番目と4番目は相続で揉めていると思われるケースです。
揉めている状態で相続人全員の印鑑証明書をそ揃えるのはハードルが高いですね。また、審判中は引き出しできませんから、生活が困窮する可能性もあります。

相続は揉めないのが一番ですね。

尚、実際は口座が「そのまま凍結解除される」わけではなく、「相続分を相続人に振込み」となります。

遺言書についてはこちらで詳しくご案内しています。
「知っておきたい相続4(遺言書)」へ

3、銀行口座凍結解除にかかる期間

凍結解除手続きを済ませてから、実際に現金となる期間ですが、銀行によってかなりの違いがあるようです。

数日~数週間かかってしまいます。

口座凍結前の預金引き出しに問題はあるか?

現実問題として金融機関が口座名義人の死亡を知らなければATMなどで現金の引き出しは出来てしまいます。

それが「問題があるか」と聞かれれば「ある」としか答えようがありません。
どういう問題があるのかを少し述べてみたいと思います。

1、「銀行の問題」より「相続人同士の問題」

まず、銀行が口座名義人の死亡を知らなかったことにより現金を引き出した場合、なんらかの刑事罰があるかと言えばありません。

また、銀行も銀行側に口座の管理に落ち度が無ければ問題にはしません。

どちらかといえば、「相続人同士の問題」と言えるでしょう。

遺産相続について全く揉めない環境であればいいのですが、死亡時点から預金額が変動してしまうわけですから、揉めてしまうと「勝手に使い込んだ」と余計に感情的な問題になってしまいます。
故人の葬式費用や医療費については口座が凍結されてしまっても対応してくれる金融機関もあります。

また、当面の生活費に困ることもあるでしょうから、相続人の間でよく連絡を取り合ってから引き出しましょう。

口座が凍結されると面倒なので、死亡の前に勝手に引き出してしまう人もいますが、すべての場合が悪意でやっているとは思いません。
相続税の問題や遺産分割協議のこともあるので、引き出した際の明細などは何かのときのために、捨てずに取っておくことをお勧めします。

2、相続放棄との関係

現状は預貯金は相続財産ですので、葬式費用や故人の医療費に使ったような場合を除き、私的に使ってしまった場合は「相続放棄できなくなる」と思ったほうが良いでしょう。

後になって連帯保証債務や負債が見つかるケースも多くありますので、慎重に行動しましょう。

相続放棄についてはこちらで詳しくご案内しています。
「知っておきたい相続3(相続放棄)」へ

このページのまとめ

いかがでしたでしょうか?故人の預貯金が凍結されると結構面倒な手続きがあることがわかると思います。
一方、凍結しないで使ってしまうのも、また面倒なことになってしまうこともお分かりいただけたと思います。

簡単にこのページのポイントを書いてみました。

  • 1、故人の預貯金は相続人の「債権」である
  • 2、公正証書遺言があると手続きは楽になる
  • 3、相続で揉めると口座の凍結は終わらない
  • 4、安易に引き出して使うと、相続放棄できなくなる

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