失敗しない生前贈与2(暦年贈与と相続時精算課税)
さて、ここから非課税でできる生前贈与の制度の詳細をご紹介いたします。
このページの目次
暦年贈与と相続時精算課税制度
生前贈与の非課税制度はすべてを併用して利用できるわけではありません。
暦年贈与と、相続時精算課税制度はどちらかを選択しなければなりません。
1、暦年贈与と相続時精算課税制度の違い
暦年贈与
暦年贈与は贈与者、受贈者に特に制限なく、毎年110万円まで非課税で贈与できる制度です。
この110万円までの部分を基礎控除額といいます。
110万円(基礎控除額)を超えた部分については贈与税がかかります。
確定申告も基礎控除額の範囲内であれば不要なのはとてもありがたいです。
ただし、贈与者が死亡し相続が開始した場合、死亡から3年以内に受けた贈与については全額相続財産に加算して相続税を計算することになります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は贈与者と受贈者に制限があります。
ただし、特別控除額として累計2500万円(一括でも分割でも可能)を非課税で贈与することができます。
2500万円の特別控除額を超えた部分については、一律20%が課税されます。
この制度利用のためには、贈与を受けた年の翌年に納税額が無くても贈与税の申告書と相続時精算課税選択届出書を提出することとなります。
また、受贈者が死亡し相続が開始された場合、贈与時期には関係なく相続財産に贈与財産を加算して贈与税を計算します。
この場合、加算する贈与価額は贈与時の価額を適用します。
暦年課税と相続時精算課税制度の比較
項目 | 内容 |
---|---|
1、贈与者 | 暦年課税・・・制限なし 相続時精算課税・・・贈与年の1月1日時点で60歳以上の父母 および祖父母 ただし平成33年12月31日までは特例 として60歳以上という制限が撤廃され ています。 |
2、受贈者 | 暦年課税・・・制限なし 相続時精算課税・・・受贈年の1月1日時点で20歳以上。 贈与時において贈与者の推定相続人である子 および孫 |
3、控除額 | 暦年課税・・・毎年110万円 相続時精算課税・・・特別控除額 累計2500万円 |
4、制度利用開始手続き | 暦年課税・・・不要 相続時精算課税・・・最初の贈与を受けた翌年の2/1~3/15に 相続時精算課税選択届出書を税務署に提出。 |
5、確定申告 | 暦年課税・・・基礎控除額の範囲内は不要 相続時精算課税・・・贈与を受けた翌年は納税額がなくても贈与税 の申告書を提出。 |
6、相続時の手続き | 暦年課税・・・①相続開始前3年間に受けた贈与は、原則相続財産に 算入し相続税を計算 ②既にに支払った贈与税額は相続税額から控除できる が、多く支払っていても還付されない。 相続時精算課税・・・①相続財産に贈与を受けた財産を加算して 相続税を計算 ②支払った贈与税額が相続税額より多い場合 還付される。 |
少しわかりにくいので、制度を下記のとおり図解してみます。
相続時精算課税制度のメリット・デメリット
言葉で聞くといいことばかりに聞こえる「相続時精算課税制度」ですが、上の図解を見て「んっ?」と思った方もいらっしゃると思います。
「結局、相続するのと同じ計算になるのでは??」と。
実際、「暦年課税の方が税金が安かった」といったことにもなりかねませんから、十分に全体像を理解しましょう。
また、相続税の計算方法には多くの「控除」や特殊な算定方法があることもよく勉強しておかないとわからなくなってしまいます。
相続税についてはこちらで詳しくご案内しています。
「相続時精算課税制度」は一度選択すると、後での変更が出来なくなります。
メリットとデメリットを知った上で、税理士など専門家の意見を聞きながら慎重に判断するようにしましょう。
以下、メリットとデメリットをご説明いたします。
1、相続時精算課税のメリット
- 1、短期間でまとまった財産を贈与できる
2500万円を110万円ずつ非課税で贈与しようとすると20年以上かかってしまいます。
また、不動産など分割で贈与することが難しいものは一括で贈与が可能です。
相続開始時に所有権が共有状態にならず、明確に所有権の移転ができます。
- 2、相続税の還付が受けられる
2500万円を上回った場合の贈与税もあくまで「仮払い」であり、実際の相続が始まり相続税に対して「払い過ぎ」が発生した場合は還付されます。
- 3、贈与時の価額で相続財産の計算ができる
不動産や株式などで、取得時よりも値上がり傾向が続いている場合、贈与時の価額で相続財産の計算ができます。
- 4、贈与財産が生み出した利益を得ることが出来る
贈与された財産は、相続財産に参入されますが、不動産や株式を贈与した場合は既に所有権が移転しているので相続までの間の利益は受贈者が得ることができます。
- 5、特定贈与者以外からは暦年贈与が受けられる
相続時精算課税の贈与者を「特定贈与者」と言います。受贈者は「特定贈与者」以外の人からは暦年課税で贈与を受けることができます。
- 6、「孫」に直接贈与できる
相続では有効な遺言書がない限り、「子」を飛び越えて「孫」に相続されることは滅多にありませんが、要件が合致すれば、贈与者の意思で直接贈与することができます。
デメリット
- 1、「小規模宅地等の特例」を併用できない
平成27年の法改正で、相続税の基礎控除は大きく減額されました。
その中で、「小規模宅地等の特例」は要件さえ合えば80%もの宅地の評価減ができる重要な問題です。
この要件に合っている人は贈与する相手、内容を十分に検討しておきましょう。
「小規模宅地等の特例」については次の「失敗しない生前贈与3」の中でご説明しています。
- 2、土地、株式が値下がりしたときのリスクがある
贈与した財産は、相続時に相続財産に参入しますが、その価額は「贈与時」の価額になります。
値上がりした場合は生前贈与のメリットが出ますが、値下がりするとデメリットとなります。
将来のことはなかなか予測しにくいです。専門家の方の意見も聞くようにしましょう。
- 3、「孫」に相続税がかかる可能性がある
相続が開始されると相続税が計算されます。本来の相続人である配偶者や子はそもそも相続人ですが、「孫」の場合はそうでないにも関わらず相続税の納税義務を負う可能性があります。
また、「孫」へ贈与した場合、「代襲相続人」になっていない限り、相続税の2割加算の対象にもなります。
- 4、物納ができない
暦年課税の場合、相続財産に加算された贈与財産は相続税の支払時に「物納」することできますが、相続時精算課税によって贈与を受けた財産は物納できません。
相続時精算課税制度と相続放棄
「相続時精算課税制度を選択した場合でも「相続放棄」はできます。
また、贈与された財産を手放す必要もありません。
非常にややこしい話ですが、「民法」と「税法」は全く違う理屈で存在していますので、別個のものとして覚えましょう。
相続放棄した場合、民法上は、「当初から相続人ではなかった」ことになり、相続でその財産を取得したことにはなりません。
しかし、税法上は、その贈与財産は相続によって取得したものとして相続税の計算がされることになります。
このページのまとめ
簡単にこのページのポイントを書いてみました。
- 1、2つの制度は選択する必要がある
- 2、相続時精算課税には要件がある
- 3、メリットとデメリットをよく理解しよう
- 4、専門家の助言を必ず聞こう
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